「創業融資を受けるときに作成する計画書で『経営理念』を盛り込みたい」
「自社HPの印象を良くするには『経営理念』が必要なのでは?」
とお考えの個人事業主・フリーランスの方は少なくないと思われます。そんな方にとって「『経営理念』がどの程度重要なのか」や「『経営理念』の作成方法」について解説してまいります。
目次
創業段階での「経営理念」作成は優先度が低い
個人事業主・フリーランスの方は創業段階に位置している方が多いと思われます。結論から申し上げると、この段階での「経営理念」作成は優先度が低いです。詳細を以下、解説いたします。
経営理念は「自分のため」に作るものではない
創業段階の方が「経営理念」について考える背景には以下のような事情があると考えられます。
「融資申し込み時に提出する事業計画書に『端的で印象に残るスローガン』を書き込みたい…」
「HPに掲載するのに相応しい言葉を考えて…」
「将来的に求人を出すにあたり『良いフレーズ』を盛り込めないものかと…」
上記の事業者様に共通して言えることは「『自身のモチベーションの拠り所』として『理念が欲しい』と考えているわけではない」と言うことです。理念を作成する目的は対外的なアピールのためにあります。
そして、私の経験や過去に見聞きした事例から判断して、銀行には「理念に着目して融資の可否を判断する担当者」は少ないのが実情です。また、顧客の便益を考えるにあたっても、「『理念』よりも『サービス内容』の方が重要」という結論になります。「御社の理念に共感して…」と述べる応募者からも「応募にあたっての大義名分として『理念』を使っているに過ぎない」という印象を受けるのが実際のところです。
よって、創業段階の場合、「対外的なアピールのために理念を作成したにも関わらず、外部の人は『理念』をそれほど重視していない」という状況が生まれてしまう結果になりかねません。
こういった背景を踏まえると、創業段階の方にとって「理念の作成」はそこまで重要でないと考えられます。
経営理念は事業開始から一定の期間が経過した後に必要
事業者の方が数人以上の従業員を雇用して法人化を検討している段階(「継続的成長」の段階)において「経営理念」の作成は意義を有します。
なぜなら、この段階における理念はその企業内で働く人にとって「判断の拠り所」という意味を持つことになるためです。
ここで、スタディプラス株式会社様の事例(スタディプラス株式会社の事業とカルチャー – Wantedly)を紹介いたします。同社の社風についてまとめると以下の通りです。
スタディプラス株式会社の社風・ボトムアップで社員の主体性重視
・定期的な全社イベントを実施し社内の交流が活発
この社風の前提に同社の「学ぶ喜びをすべてのひとへ」という理念があります。また、同社は2022年時点で従業員数100人以下の成長段階にある企業です。この段階だからこそ理念が機能し「ボトムアップで主体性を重視しながらも従業員間で価値観を共有出来ている」という背景があります。
また、成長段階に至った事業者様は創業段階を経て一定の事業経験を積んでいるはずです。それらの「経験を踏まえた理念を策定可能であること」も成長段階においての理念策定が有意義である理由となります。
「経営理念」ではなく「ビジョン」が必要
創業段階の経営者にとって必要なのは意思決定の根拠である「経営理念」ではなく、目指すべき姿である「ビジョン」ではないでしょうか。これは成長段階においても同様のことが言えると考えられ、中小機構が発表している成功事例の多くは「大まかな方向性を社内で共有したこと」を成功要因として説明するケースだと言えます。
創業段階の方にとっては「大事にしたい価値観」よりも「目指すべき方向性」について設定しておくことの方が意義深いでしょう。
経営理念の作成方法
「創業段階での『経営理念』策定は重要度が低い」という主張に関し、納得できずとも理解はして頂けたかと思います。そんな中にあっても経営理念を策定する場合、「どのような方法で作成すれば良いか」、また、成長段階で「どのように理念を作り直せばよいか」についての解説は以下です。
「目的意識」と「倫理的な正しさ」を重視
前述の通り、創業段階の事業者様が「経営理念」の作成を検討されている場合、その目的は「対外的なアピールのため」であると考えられます。よって、基本的には「目的意識」を示すこと、「倫理的な正しさ」を示すことが重要です。例えば、Amazonの理念「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」からは大げさな印象を受けると思います。しかし、同理念は「目的意識」や「倫理性」を示せているという点で見習うべきものです。創業段階の方にとっては「同理念のスモール版の作成」を意識する必要があります。
基本的に「一定の具体性」があり、「事業活動において有用な知恵」が盛り込まれた理念こそが望ましいと言われますが、創業段階において、そのレベルの精緻さは求められないでしょう。
「誰のために」、「何を以て」を明記した理念を作成
一定の事業経験を経た成長段階においては「経営理念策定」の意義が高まります。この段階においては「理念に目的意識が反映されているか」、「理念は倫理性を伴っているか」という観点に加え、「ある程度の具体性があるか(観念的でない)」や「事業活動に有用な知恵が網羅されているか」といった観点からも理念を見つめ直すことが必要です。
上記の観点を踏まえ、理念の作成方法として代表的なものに「誰のために」、「何を以て」を明記した事業計画を作る方法があります。例として、ブリヂストンの企業理念が以下の通りです。
使命
最高の品質で社会に貢献心構え
誠実強調
進取独創
現物現場
熟慮断行
出典:企業理念|株式会社ブリヂストン 企業理念 | 株式会社ブリヂストン (bridgestone.co.jp)
上記の「使命」の部分は「誰のために」、「何を以て」を明記した内容となります。また、「使命」の部分のみでは表現しきれない「知恵」や「具体性」の部分を「心構え」の部分で表現している点も注目すべき点です。よって、成長段階の事業者様が経営理念を策定する場合、ブリヂストンの理念を参考にすることが推奨されます。
経営理念の実用性
前述した通り、「経営理念策定」の意義は創業段階においては高くないと考えられます。では、そんな「『経営理念』にどんな実用性があるのか」解説した内容が次の通りです。
「ドメイン」についての理解は必要
規模の大小を問わず、企業にとって「どこで戦うか」は重要な問いです。
例えば、経営学において「鉄道会社」に関する次のような考え方がしばしば引用されます。それは飛行機の実用化後に「鉄道会社」の存在感が薄まった要因を「鉄道会社が『鉄道の便益を顧客に提供すること』を自社の戦場として定義してしまったことにある」と見なす考え方です。経営学においては「鉄道会社が『郵送・移動』を自社の戦場として定義していれば異なる結果があったかもしれない」と考えられております。
このように、「どこで戦うか」という問いは「ドメイン」の問題と言われるものです。
経営理念が自社のドメインについて表現することも多く、経営理念には「自社の戦場を表現する役割がある」と言えます。あるいは経営理念が「ドメインを検討する上での前提となる価値観を表現する」可能性もあるでしょう。
「経営学的な知識」を偏重することの危険性
ここまで、「経営理念」や「ドメイン」など、経営学の知識に触れながら「経営理念」の実用性について解説してまいりました。これらが創業セミナーのコンテンツとなる機会も少なくありません。
しかし、創業段階の方にとって真に重視すべきは「資金繰り予定を作成すること」、「営業・集客活動を行うこと」など、より実践的なことではないかと思います。
無論、「経営学的な知識」は原理・原則となる事項ではあるものの、やや観念的で応用が難しいのも事実です。よって、これらを学習することは重要であったとしても、「創業段階で優先して学ぶべき事項ではない」と実感いたします。
まとめ
創業段階において「経営理念策定」は優先度が低いです。その背景には「創業段階における理念は『対外的なアピール」』のために作成される一方、外部の人間は理念をそこまで重視しない。」という事情があります。一方で、一定の事業経験を経た成長段階では理念の重要性が高まることにも留意が必要です。また、価値観としての「理念」よりも、方向性を示す「ビジョン」の方が重要度は高いでしょう。
経営理念の作成においては創業段階ではとりあえず、「『倫理性』を伴い『目的意識』の反映された理念」の作成を心がけ、成長段階では「『知恵』が盛り込まれ一定の『具体性』を有する理念」へとブラッシュアップする必要があります。また、「誰のために」・「何を以て」を明記することが分かりやすい理念の作成方法です。
なお、理念の持つ機能の一つに「自社が戦う戦場(ドメイン)を表現すること」があります。しかし、理念やドメインといった経営学的知識は応用の難しい分野です。実践が求められる創業段階では経営学的知識以上に、資金繰りや営業など具体的行動が必要となります。
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